コートの毛玉の取り方|指で押して沈む面と沈まない面で、手を変える

ひと夏しまっていたコートを出して、袖口と脇のあたりが白く曇っているのに気づく。9月半ばのこの時期、いちばん多い一場面です。
ここで毛玉取りの道具を探し始めると、たいてい面が痛みます。コートは、ニットで使える手順がそのままでは当てはまらないからです。理由は一つで、表地の下に芯と裏地が入っているためです。
同じ一枚のコートでも、触っていい面と触ってはいけない面が分かれます。分け方は、指で押すだけです。
結論:指で押して沈まない面だけに刃を当てる
決めることは順に3つです。
- 指の腹で押して、面が沈むかどうかを確かめる。沈む面には刃を当てない
- 面をひと方向になでて、色が変わるかどうかを見る。変わるなら取らずに起こす
- 出したばかりの今日は判定しない。吊るして形が戻ってから確かめる
毛玉そのものを取っていいかどうかの一般的な見分け方(根元の動き・直径・生地の厚み・毛足)は、毛玉の取り方の判定に置いてあります。ここではその手前にある、コートという構造だけの事情を扱います。
表地の下に、芯と裏地がある
ニットは一枚の編み地です。裏から押しても指はどこまでも沈み、面の状態は場所によって変わりません。
コートは違います。襟・前立て・肩・袖口の折り返しには芯が入り、背中と袖には裏地が別の布として浮いています。 裏地は表地に全面を縫い留められていないので、あいだに空洞が残ります。
この空洞が、道具の効き方を変えます。刃の受け口を当てると、生地は受け口の中へ吸い込まれて張ります。芯のある面なら、下が硬いので表地は逃げません。空洞のある面だと、表地が空洞のぶんまで引き込まれ、袋のように噛み込みます。厚手でも起きます。
穴が空くのは、生地が薄かったからではなく、下に逃げ場があったからです。
押して確かめる|面ごとの早見表
コートを平らに置いて、指の腹で各所を軽く押してください。深さを見ます。
| 押す場所 | 下にあるもの | 沈み方 | 当てていい手 |
|---|---|---|---|
| 襟の外側・台襟 | 芯 | 沈まない | 刃・ハサミとも可 |
| 前立て(ボタンの並ぶ縦の帯) | 芯 | 沈まない | 刃・ハサミとも可 |
| 肩から腕の付け根 | 芯・肩の詰めもの | ほぼ沈まない | 刃・ハサミとも可 |
| 袖口の折り返し | 芯 | 沈まない | 刃・ハサミとも可 |
| ポケットの口の周り | 袋布が二重 | 沈まない | 縫い目の縁は避けてハサミ |
| 背中の中央から裾 | 裏地が浮く | 指の第一関節ぶん | 台を作ってからハサミ |
| 袖の外側・内側 | 裏地が浮く | 深く沈む | 台を作ってからハサミ |
| 脇の下 | 縫い代が集まる | 沈まないが面が丸い | ハサミのみ |
| ベルトや背中の絞り | 表地が二重 | 沈まない | 刃・ハサミとも可 |
右の列が「ハサミのみ」「台を作ってから」になっている面は、コート全体の面積の半分以上を占めます。つまり、コートは刃で一気に片づく一枚ではありません。時間の見積もりを先に下げておくと、途中で雑になりません。
沈む面には、台を作ってから手を入れる
背中と袖は、そのままでは処理できません。下に一枚だけの状態を作ります。
前を開いて、片側だけを平らな台に載せてください。 前身頃は左右がつながっていないので、片方だけ広げれば、その面の下には台があります。これで沈まなくなります。
背中は、コートをうつぶせに広げ、前身頃を左右に開いて台の外へ垂らします。背面だけが台に載った状態になります。
袖は中に筒を入れます。丸めたタオル、包装紙の芯、雑誌を巻いたもので足ります。太さは、腕を通したときよりやや弱めに。ぱんぱんに張ると毛玉の根元まで持ち上がり、切りすぎます。
光は真上ではなく斜めから入れてください。真上からでは毛玉の影が出ません。5個切ったら一度かざして確かめます。
面から1ミリ上を切る理由は生地の側の話なので、判定の記事のほうに置いてあります。
なでて色が変わる生地は、取らずに起こす
コートに多いのが、表面に毛足のある厚手の生地です。厚く起毛したもの、細い毛が斜めに寝ているもの、ふさふさと長いもの。
確かめ方はひとつです。面を指でひと方向になでて、なでた跡の色が変わるかを見てください。 変わるなら毛足があります。変わらなければ平らな織りです。
毛足のある生地では、表面の毛の立ち具合そのものが仕上げの一部になっています。ここを刈ると、毛玉と一緒に毛足も短くなり、取ったところだけ面が沈みます。沈んだところは光を返す向きが変わるので、遠目に「そこだけ色が違う」ように見えます。
だから手順が逆になります。毛の硬めのブラシを、毛足の向きに逆らう方向へ短く動かして、絡んだ毛を起こす。ほどけたところで、最後に毛足の向きへ一方向に整える。これで、固まりきっていない毛玉は面に戻ります。
起こしても戻らない大きなものだけを、先の細いハサミで1個ずつ処理してください。数は、一枚につき片手で数えられるくらいで足ります。
出すいまと、仕舞う前とで、やることが違う
コートは年に2回、出す日と仕舞う日があります。同じ作業をする場所ではありません。
出すいまは、取る日ではなく起こす日です。 ひと季節たたまれていた生地は、重なった圧で毛玉が押し固められています。押し固められた毛玉は、根元が離れかけているのか生地とつながったままなのかが指で判別できません。まず吊るして半日から一日おき、肩と袖の形が戻ってから確かめてください。判定の答えが変わることがあります。
仕舞う前は、取る日です。そのシーズンの摩擦がすべて終わっているので、いま出ている毛玉が最終形です。ここで処理してから仕舞うと、次に出したときに押し固まったものを抱えずに済みます。
つまり、9月は起こす、3月は取る。年2回の内訳がこう分かれます。
こすれる場所は、コートだけ少し違う
毛玉が集まる場所そのものはけだまができる前にに置いてあります。コートで足しておきたいのは、外側の一枚にしか起きない4つです。
- 斜めのベルトが当たる胸から腰。運転する日が多いほど、同じ線に集まります
- 肩に掛けるものの当たる面。コートは肩が芯で硬いので、荷重が一点に載ります
- 前を開けて歩いたときの前端。腕の外側と前立ての縁がこすれます
- 腕に掛けて持ち歩いたときの折り目。室内で脱いだあと、ここに集中します
どれも、掛ける側を日によって替えるだけで散ります。取る回数より、こちらのほうが先に効きます。
よくある行き違い
「コートは厚手だから、刃を当てても平気」。 厚みではなく、下に逃げ場があるかどうかです。上の表で沈んだ面は、厚手でも噛みます。生地の厚みで道具を決める考え方そのものは判定の記事にありますが、コートではその前に、押して沈むかどうかが挟まります。
「毛玉は洗う前に取る」。 これは家で洗える一枚の話です。コートは家で洗えないものが多く、前後関係そのものが作れません。代わりに置けるのは、着たあと丸一日吊るして繊維が元に戻ってから触る、という順番です。洗濯との前後が使える一枚のほうは、けだまを取る日は洗う前か後かに置いてあります。
「毛玉が出たら、そのコートはもう外に着ていけない」。 面によります。袖の内側、脇の下、前の折り返しは、着て歩いているあいだ視線がほとんど届きません。見える面だけを整えて、見えない面は起こすだけにすると、生地の減り方がゆるやかになります。
装いに活かすなら
コートを出し始めるこの時期は、全部そのまま使うか、一枚買い足すかの二択になりがちです。けれど実際には、手を入れれば今季も主役でいられる一枚と、役割を一段下げていい一枚が混ざっています。
今日いちばん出番の多い一枚だけ、ハンガーに掛けたまま襟と前立てを押してみてください。そこで沈まなければ、この秋の手入れは思ったより短い時間で終わります。基準がひとつ決まれば、残りは並べて比べるだけで順番が付きます。
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よくある問い
- Q. コートは厚手だから、電動の毛玉取りを当てても大丈夫ですか
- 厚みではなく、その面の下に何があるかで決まります。襟や前立てのように芯の入ったところは押しても沈まないので、生地が受け口に逃げません。ところが背中や袖は、表地と裏地のあいだに空洞があります。ここに受け口を当てると、表地が空洞のぶんまで吸い込まれ、袋のように噛み込みます。厚手でも起きます。指の腹で押して、第一関節ぶん沈む面は避けてください。
- Q. 毛足のある厚手の生地の毛玉は、どうすればいいですか
- 取るのではなく起こす側です。面を指でひと方向になでて、なでた跡の色が変わるものは毛足があります。この手の生地は表面の毛の立ち具合そのものが仕上げなので、刈ると取ったところだけ面が沈み、光の返り方が変わります。毛玉は消えたのに前より目立つ、という結果になりやすい。毛の硬めのブラシで毛足の向きに逆らって起こし、最後に一方向へ整えると、絡んだ毛がほどけて面に戻ります。
- Q. いま出したばかりのコートに毛玉があります。今日のうちに取るべきですか
- 今日は起こすだけにして、取るのは何回か着てからのほうが安全です。ひと季節たたまれていた生地は、重なった圧で毛玉が押し固められています。この状態だと、根元が離れかけているのか生地とつながったままなのかが指で判別できません。まず吊るして半日から一日おき、肩と袖の形が戻ってから確かめてください。同じ毛玉でも、判定の答えが変わることがあります。
- Q. 袖の内側にたくさんできています。全部取ったほうがいいですか
- 外から見えるかどうかで分けてください。コートは面によって役割が違い、袖の内側と脇の下、前身頃の裏に近い折り返しは、着て歩いているあいだほとんど視線が届きません。見えない面は、こすれ続ける場所でもあるので、取ってもまた同じだけ出ます。見える面だけを整えて、見えない面は起こすだけにすると、生地の減り方がゆるやかになります。
— メグラシ編集部




