撥水トレンチコート|濡れるのは生地ではなく、5か所の重なりの隙間

雨の朝に撥水のトレンチを羽織って出て、駅に着いて脱いだら、肩と腰のあたりだけ色が濃くなっている。ほかの面はまだ水を弾いているのに、そこだけ染みている。
こうなると「撥水が落ちたのだろうか」と思いますが、面がまだ弾いているなら、加工そのものは生きています。動いているのは別のところです。
トレンチは、アウターのなかでも布の重なりがいちばん多い形です。前の打ち合わせ、肩の当て布、背中のヨーク、袖のベルト、腰のベルト。この5か所は生地が1枚ではありません。9月の長雨に入る前に、家で広げて確かめておくと、同じ一着の濡れ方が変わります。
結論:濡れているのは面ではなく、重なりの下端
撥水加工は生地の表面で水を玉にして転がします。転がった水はどこかへ行くので、必ず溜まる場所ができます。
トレンチの場合、その行き先は布が重なっている場所の下端です。面を滑ってきた水は重なりの段でいったん止まり、そこで玉がつぶれて広がります。広がった水は縫い目の針穴から内側へ入ります。生地の性能ではなく、水がどこに集まるかの問題です。
だから確かめるのは、弾くかどうかではなく、重なりが何cmあって、その下端がどこで終わっているかのほうです。
📋 早見表|水が入る5か所と、家で確かめること
| 場所 | 何を見るか | 大丈夫な状態 | 入りやすい状態 |
|---|---|---|---|
| 前の打ち合わせ | 上前と下前の重なり幅 | 7cm以上 | 5cm未満 |
| 肩の当て布 | 下端が脇の縫い目を越えているか | 2cm以上下 | 縫い目より上で終わる |
| 背中のヨーク | 横の縫い目の上に布がかぶるか | かぶっている | 縫い目が表に出ている |
| 袖のベルト | 留めた穴と手首の隙間 | 指1本ぶん | 指3本ぶん以上 |
| 腰のベルト | 結び目があるか | 留めるか通すだけ | 前で結んである |
5つとも、雨の日の朝に鏡の前で30秒あれば確かめられます。全部を直す必要はなく、上から2つが上半身の濡れ方をほとんど決めています。
① 前の打ち合わせ|重なりは7cm
トレンチのボタンは縦に2列あります。どちらの列で留めるかで、上前と下前の重なり幅が変わります。
外側の列で留めると重なりが深くなり、内側の列だと浅くなります。晴れた日は内側で留めて前を軽く見せることもありますが、雨の日は外側に寄せてください。重なりが7cmあれば、歩幅で前が開いても隙間ができません。
重なりが5cmを切ると、歩いているあいだに前が割れます。割れた高さから内側に水が入り、脱いだときに内側の裾のほうが濡れている、という状態になります。内側だけ濡れている一着は、生地ではなく留める列を間違えています。
② 肩の当て布|下端が脇の縫い目より下にあるか
右肩(型によっては両肩)に、もう1枚の布が乗っています。もともとは肩を守るための当て布ですが、雨の日には水の通り道を変える役目をします。
見るのは、その布の下端がどこで終わっているかです。脇の縫い目より2cm以上下で終わっていれば、面を滑ってきた水は脇の縫い目を飛び越えて、その下の面へ渡ります。縫い目より上で終わっていると、水は縫い目の上に落ちて、そこで止まります。
肩だけ濡れる一着は、ここが短いことが多いです。布そのものは変えられないので、鞄を反対側に持ち替えてください。紐が当て布を押さえると、下端が体に貼りつき、水が渡れなくなります。
③ 背中のヨーク|横の縫い目が見えているか
背中の上のほうに、横に走る縫い目があります。この線の上に布がかぶっている型と、縫い目がそのまま表に出ている型があります。
かぶっている型は、上から落ちた水が布の上を渡って下へ流れます。出ている型は、縫い目の線に水が溜まります。背中の肩甲骨のあたりだけ横一文字に濡れているなら、ここです。
型を変えられない以上、できるのは背負い方のほうです。背中に鞄を背負うと、縫い目の線が押さえつけられて水がその場に留まります。雨の日は手で持つか、前に回してください。
④ 袖の先|ベルトは指1本ぶんで留める
袖の先にも細いベルトがあります。ここは水が入る場所であると同時に、出ていく場所でもあります。
留めた状態で、袖口と手首のあいだに指が1本入るくらいがちょうどです。緩すぎると、腕を下げたときに袖口から水が入ります。傘を持って腕を上げている時間が長い日は、この向きで入ります。
きつすぎると別の問題が出ます。手首に密着した帯の部分だけ、動くたびに擦れます。擦れた帯は撥水が先に落ち、そこから内側へ染みます。指3本ぶん以上あいているか、逆に指が入らないか。どちらも直す合図です。
⑤ 腰のベルト|結ばずに、穴1つ緩める
いちばん濡れやすいのが腰です。理由は2つあって、重なりが多いことと、締めつけがあることです。
前で結ぶと、結び目の厚みに水が溜まります。結び目は乾くのもいちばん遅いので、翌日まで湿りが残ります。雨の日は後ろで留めるか、前の金具に通すだけにしてください。
締め方も効きます。きつく締めるほど布が体に貼りつき、その帯が歩くたびに擦れます。**腰から濡れ始める一着は、加工が弱いのではなく締めすぎです。**普段より穴1つぶん緩めると、帯が体から浮いて、擦れる回数が減ります。
撥水が先に落ちる場所は、面ではなく線
撥水は全体が一様に落ちるのではなく、擦れる場所から線の形で落ちます。トレンチで先に来るのは3か所です。
| 場所 | 何で擦れるか | 落ちたときの見え方 |
|---|---|---|
| 腰の帯 | ベルトと体の動き | 腰まわりだけ水が玉にならない |
| 肩の一方 | 鞄の紐 | 片方の肩だけ色が濃くなる |
| 袖の折り返し | 手を出し入れする動き | 袖口の周りだけ染みる |
確かめ方は簡単で、乾いた状態でその線の上に水を一滴落とします。玉のまま残れば生きていて、輪郭が崩れて色が濃くなれば落ちています。面では玉になるのに線では崩れる、という状態が実際にはいちばん多い形です。
落ちた線は、洗って熱を当てると戻ることがあります。撥水と防水の違いや、熱で戻る場合と戻らない場合は、雨具全般の話として別の記事にまとめてあります。
9月の長雨で、何分もつか
秋の雨は、夏の夕立のように短く強く降るのではなく、弱いまま長く続きます。トレンチにとってはこちらのほうが難しい降り方です。
弱い雨は、面を転がる勢いがありません。転がらない水はその場に留まり、重なりの段まで届く前に布へ染み込みます。強い雨のほうが、かえって水は下まで落ちていきます。
目安としては、傘をさしていても20〜30分外にいる日は、腰と肩の重なりに水が届きます。着いたら脱いで、前を全部開けて掛けてください。掛けたまま重ねておくと、重なりの内側が乾きません。
帰宅後は、脇の下・腰の帯・袖の折り返しの3か所を指で押します。冷たさが残っていれば、まだ内側に水があります。その状態でしまうと、次に出したとき同じ場所だけ硬くなっています。
場面で変わるところ
通勤は、傘をさして歩く時間が片道10分前後という人が多い形です。この長さなら重なりまで水は届きません。効いてくるのは、電車の中で畳んで膝に置く時間のほうです。濡れた面を内側にして畳むと、そこだけ乾かないまま職場に着きます。畳むなら濡れた面を外にしてください。
子どもの送り迎えは、立ち止まっている時間が長くなります。歩いているあいだは水が転がりますが、止まると同じ場所に落ち続けます。肩の当て布の下端に水が集中するのはこの場面です。傘を少し前へ傾けて、肩の上に落ちる範囲を減らすだけで変わります。
自転車は、風が水を布へ押しつけます。同じ降り方でも、隙間へ入る力が強くなる条件です。前の重なりは外側の列で留め、腰のベルトは留めるだけにしてください。結び目があると、前傾した姿勢でそこに水が溜まり続けます。
外に出たり入ったりが多い日は、乾ききらないうちに次の雨に当たります。この繰り返しがいちばん撥水を減らします。建物に入るたびに前を開けて風を通すと、次に出るまでのあいだに表面だけは乾きます。
よくある行き違い
「撥水と書いてあるから、雨の日はこれでいい」 ── 面の性能と、重なりからの入り方は別の話です。同じ生地でも、留める列とベルトの締め方で濡れ方が変わります。
「濡れたら撥水が落ちた証拠」 ── 落ちているのは線だけ、ということがほとんどです。面に一滴落として玉になるなら、加工は残っています。
「ベルトはきつく締めたほうが雨が入らない」 ── 逆です。締めるほど布が体に貼りつき、その帯が擦れて先に落ちます。穴1つ緩めるほうがもちます。
「雨の日はできるだけ長い丈がいい」 ── 丈が長いほど裾が跳ね上げた水を拾います。膝が隠れていれば足ります。それより下は、歩く速さのほうが効いてきます。
装いに活かすなら
今日できることは2つです。クローゼットから1着出して、前を外側の列で留めて、重なりを測ってみてください。7cmあれば、雨の日の留め方はもう決まりです。
もう1つは、ベルトの穴を1つ緩めた位置に印を覚えておくこと。晴れの日と雨の日で穴を変えると決めておくと、朝に迷いません。中に着るものは、袖口の内側が濡れても響かない素材を選んでおくと、着いたあとが楽になります。
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よくある問い
- Q. 撥水のトレンチなのに、肩と腰だけ濡れるのはなぜですか
- その2か所は、生地が1枚ではなく重なっている場所だからです。肩には当て布が乗り、腰にはベルトが巻かれています。重なりの下端や、ベルトで押さえつけられた帯には、面を転がってきた水が集まります。集まった水は自分の重さで玉の形を保てなくなり、縫い目の穴から内側へ入ります。生地の撥水が落ちているのではなく、水が一点に集まる構造のほうが先に効いています。
- Q. 前を留めるとき、どこまで重ねればいいですか
- 上前と下前の重なりが7cm以上あるかを見てください。トレンチはボタンが縦に2列あり、どちらの列で留めるかで重なり幅が変わります。外側の列で留めると重なりが深くなり、内側の列だと浅くなります。雨の日は外側で留めて、重なりを深いほうへ寄せます。重なりが5cmを切ると、歩いているあいだに前が開き、その隙間の高さから内側が濡れます。
- Q. ベルトは結んだほうがいいですか、留めたほうがいいですか
- 雨の日は、後ろで留めるか、前で金具に通すかのどちらかにしてください。結ぶと結び目の厚みができ、そこに水が溜まります。結び目は乾くのがいちばん遅い場所でもあります。金具に通す場合は、穴1つぶん緩めてください。きつく締めるほど布が体に密着し、その帯の撥水が擦れて先に落ちます。腰から濡れ始める一着は、たいてい締めすぎています。
- Q. 撥水のトレンチは、雨の日に毎回着てもいいですか
- 着るぶんには問題ありませんが、続けて着ると乾きが追いつきません。トレンチは重なりが多いぶん、内側まで乾くのに時間がかかります。脇の下と、腰のベルトの帯、袖の折り返しの3か所を指で押して、冷たさが残っているうちに次の日また着ると、その場所の撥水が落ちる速さが倍になります。雨が続く週は、2着を交互に回すか、前の晩に前を全部開けて掛けておいてください。
— メグラシ編集部




