旅館の夕食は浴衣でいい?|秋冬は食事処までの廊下と座り方で決める

**この旅館の夕食に、浴衣で行ってよいか。**答えはほとんどの宿で「行ってよい」です。迷うべきなのは、その上に何を重ねるかと、食事処でどう座るかのほうです。
秋冬の旅館で浴衣の夕食がつらくなるのは、失礼かどうかではありません。部屋を出てから食事処に着くまでの廊下で冷えること、座敷で90分座るあいだに足先と腰が冷えること、立ち上がるときに前が開くこと。この3つです。
ここでは、宿の案内で可否を確かめたあと、廊下の長さと座敷か椅子かの2つで、浴衣の上と下に足すものを決めていきます。どちらとも取れる場合の決め方も、後半で厚めに書きます。
浴衣の帯の位置や結び方そのものは旅館の浴衣の帯の結び方(秋冬は丹前と夕食の場面で選ぶ)に、荷物の減らし方は温泉旅行の持ち物(1泊は宿にある物と部屋で過ごす時間で減らす)にまとめています。
結論:浴衣で行ってよい。決めるのは重ねる枚数と座り方
先に結論を3行で置きます。
| 部屋から食事処まで | 座る形 | 浴衣に足すもの |
|---|---|---|
| 同じ階で50歩以内 | 椅子 | 備え付けの羽織だけ |
| 同じ階で50歩以内 | 座敷 | 羽織+浴衣の下にひざ下までの薄い1枚 |
| 階をまたぐ・渡り廊下がある | どちらでも | 羽織+下に長袖とレギンス+靴下 |
この表は、浴衣の可否ではなく、冷えと前の開きを防ぐために何を足すかを決めるためのものです。浴衣で行くかどうかは、表を見る前にもう決まっています。
浴衣を着ること自体を迷う人は、たいてい「みんなが着替えていたらどうしよう」という気持ちから迷っています。けれど、旅館の食事処でいちばん多い服装は浴衣です。着替えた人が少数派になる宿のほうが多いくらいです。
もう1つ、迷いを生むのが「浴衣のままだと、だらしなく見えないか」という心配です。旅館の浴衣は、宿の側が館内で着てもらうために用意している服です。帯をきちんと締め、上に羽織を重ねていれば、だらしなく見えることはありません。だらしなく見えるのは、帯が緩んで合わせがずれているときです。つまり、見え方を決めているのも、浴衣かどうかではなく、着方のほうです。
それでも迷うときに見るのは、周りの人ではなく自分の体です。食事のあいだずっと「寒い」「前が開かないか」と気にしているなら、浴衣でも着替えても、食事の時間は楽しめません。気にしないで済む状態を作ることを、この記事の目標にします。
先に確かめること|案内の紙に書いてある3つ
浴衣で行ってよいかは、客室に置いてある館内の案内の紙で1分で確かめられます。見るのは次の3か所です。
1つめは、館内着についての一文です。「館内は浴衣でお過ごしいただけます」とあれば、食事処も浴衣で問題ありません。「レストランへは浴衣・スリッパでのご入場はご遠慮ください」とあれば、その宿は着替えが前提です。ホテルに近い造りの宿や、洋食の店が館内に入っている宿で見かけます。
2つめは、夕食の場所です。部屋食、個室の食事処、大広間、館内のレストランのどれかが書いてあります。部屋食なら廊下を歩かないので、この記事の後半はほとんど関係なくなります。
3つめは、夕食の時刻と所要時間です。会席なら90分前後、ビュッフェなら60〜90分が多いはずです。この時間の長さが、座っているあいだにどれだけ冷えるかを決めます。
案内の紙が見当たらないときは、予約の確認メールか、宿の案内ページの「よくある質問」を見てください。それでもわからなければ、チェックインのときに「夕食は浴衣で伺ってよいですか」と一言聞けば済みます。聞いて嫌な顔をされることはまずありません。
案内の紙には、食事処の場所の地図が載っていることもあります。地図があれば、部屋の番号と見比べて、同じ階か、別の建物かをここで確かめておくと、次の章の下見が短く済みます。
ここで「浴衣不可」とあった場合は、浴衣で行くかどうかの迷いは終わりです。後半の「着替えるなら」の章に進んでください。
部屋から食事処までの距離の数え方
浴衣で行ってよいとわかったら、次は廊下の長さです。チェックインのあと、荷物を置いたら一度、食事処まで歩いてみてください。夕食の前に下見しておくと、迷わずに済むうえ、廊下の寒さもわかります。
数えるのは歩数です。部屋の扉を出てから食事処の入口まで、何歩あったか。大人の女性の歩幅はおおむね60〜70cmなので、50歩でおよそ30〜35mです。
歩数に加えて、次の3つを見てください。
- **階段かエレベーターで階をまたぐか。**またぐなら、階段室やエレベーターの前は暖房が届いていないことが多く、空気が1段冷たくなります
- **外気に触れる渡り廊下があるか。**本館と別館をつなぐ屋根つきの通路は、壁がなく外と同じ温度のことがあります
- **床が板張りか、じゅうたんか。**板張りの廊下はスリッパ越しでも冷えが上がってきます
下見のときに、浴衣ではなく着てきた服のままで歩いて「少し寒い」と感じたら、浴衣ではもっと寒く感じます。浴衣は1枚の綿の布で、袖口と裾が大きく開いているからです。
下見ができないときは、チェックインのときに案内されたルートを思い出してください。エレベーターに乗ったか、外の見える通路を通ったか。それだけで、次の境目のどちらに入るかが決まります。
境目①|部屋食、または同じ階で50歩以内
部屋食か、食事処が同じ階にあって50歩以内なら、浴衣に備え付けの羽織を重ねるだけで足ります。
秋冬の旅館は、たいてい浴衣と一緒に羽織か丹前(綿の入った厚い羽織)が置いてあります。廊下を歩く時間が1分足らずなら、羽織1枚で体はほとんど冷えません。
この場合に気をつけるのは、上ではなく足元です。旅館のスリッパは素足で履く前提の形が多く、湯上がりの素足のまま食事処に行くと、座ってから足先が冷えてきます。足先が冷えると、上に何を重ねていても全身が寒く感じます。
湯上がりから夕食まで30分以上あくなら、靴下を1足持っていってください。浴衣に靴下を合わせることに抵抗がある人は、くるぶしより下で止まる薄い靴下か、足袋型の靴下にすると、浴衣の裾から見える部分がほとんどありません。
羽織は袖を通して、前を軽く合わせて着ます。羽織ひもがついていれば結んでおくと、食事のあいだに肩から落ちません。丹前が置いてある宿なら、同じ階の移動でも丹前を選んでかまいません。食事処が暖かすぎると感じたら、椅子の背にかけておけば済みます。
境目②|階をまたぐ、または50歩を超える
階をまたぐ、50歩を超える、渡り廊下を通る。このどれかに当たるなら、浴衣の上と下と足元の3か所に足してください。
上は、羽織より厚い丹前があれば丹前にします。なければ羽織の下に、自分で持ってきた薄手のカーディガンを着ます。カーディガンは浴衣の衿の内側に入れず、浴衣の上、羽織の下に着ると、衿元の合わせが崩れません。
下は、浴衣の内側に長袖の薄い肌着と、ひざ下まであるレギンスを足します。長袖の肌着は、浴衣の袖口から見えないように、手首より2〜3cm短い七分袖が扱いやすいです。レギンスは、浴衣の裾から見えない長さ、つまりふくらはぎの中ほどで止まる七分丈がちょうどよい長さです。
足元は靴下を履きます。渡り廊下の床は外と同じ温度なので、素足とスリッパで歩くと、食事処に着いたときには足先がすでに冷えています。
この3か所を足すと、浴衣の中は普段の部屋着とほとんど同じ暖かさになります。浴衣で行くか着替えるかで迷っていた人の多くは、実はこの「浴衣の中に着てよい」ことを知らなかっただけです。浴衣は、下に何も着てはいけない服ではありません。
境目③|座敷か、椅子とテーブルか
廊下の長さと並んで大事なのが、食事処の座る形です。同じ浴衣でも、座敷で座るのと椅子に座るのとでは、冷える場所も前が開く場所も変わります。
座敷(畳の上に座布団、または座卓)の場合、冷えるのは腰から下です。正座か横座りで90分座ると、畳から上がってくる冷えと、足のしびれが重なります。浴衣の下にひざ下までのレギンスを履いておくと、裾がひざの上でめくれても肌が直接畳に触れません。
座敷では前の開きも起きやすくなります。正座から横座りに崩すとき、上前(外側に重なる左の身頃)が引っ張られて、ひざから下がのぞくことがあります。レギンスを履いていれば、のぞいても気になりません。
椅子とテーブルの場合は、腰から下はあまり冷えません。そのかわり、背中と二の腕が冷えます。椅子の背もたれに羽織が当たって肩から落ちやすく、気づくと浴衣1枚で座っていることがあります。羽織ひもを結ぶか、袖を通して着ておくと落ちません。
座敷か椅子かは、案内の紙に書いていないことも多いので、下見のときに食事処の入口から中をのぞいておくと確実です。入口で靴やスリッパを脱ぐ場所があれば、座敷か掘りごたつです。脱ぐ場所がなく、そのまま入れるなら椅子席です。
座敷の場合は、スリッパを入口で脱ぐことになるので、靴下の有無がそのまま足の冷えにつながります。素足で畳の上に90分いると、畳そのものは冷たくなくても、足先から体温が逃げていきます。座敷の宿ほど、靴下を1足持っていく意味が大きくなります。
案内の紙に「お食事処(掘りごたつ席)」と書いてあることもあります。掘りごたつは、足を下ろす形なので椅子に近く、座敷ほど裾が乱れません。ただし足元が床下に下りるぶん、足先は冷えやすいので、靴下はあったほうが楽です。
浴衣の前が開くのは、座ったときではなく立ち上がるとき
浴衣の夕食で多い困りごとが、前がはだけることです。けれど、はだけるのは座っている最中ではありません。座る瞬間と、立ち上がる瞬間です。
座るときは、上前を右手で軽く押さえ、ひざをそろえたまま腰を落とします。座布団の上でひざを開いてから座ると、その時点で裾が割れます。
立ち上がるときは、片ひざを立てないことがいちばん効きます。両ひざを畳につけたまま腰を浮かせ、つま先を立ててから片足ずつ引くと、裾はほとんど割れません。椅子から立つときも、両ひざをそろえたまま前に体重をかけてから立ちます。
もう1つ効くのが、帯の位置です。旅館の浴衣は、腰ひもや帯をウエストの高さで締めがちですが、指1本ぶん(約2cm)下、腰骨の上あたりで締めると、座ったときに合わせが上に引っ張られにくくなります。食事の前に一度締め直しておくと、そのあと90分気にせずに済みます。
浴衣の丈が長すぎて、立つたびに裾を踏みそうになるなら、帯を締める前に裾をくるぶしの骨が隠れる高さまで上げ、腰のところで余りを折り込んでから帯を締めます。旅館の浴衣はサイズが数段階しかないので、身長の境目にいる人は丈が合わないことがよくあります。合わないと感じたら、フロントで一つ上か下のサイズに替えてもらえることも多いので、遠慮せずに聞いてください。
食事のあいだの冷え|90分座り続ける体
会席の夕食は、だいたい90分です。この90分のあいだ、体はほとんど動きません。湯上がりに温まっていた体は、30分を過ぎたあたりから冷えはじめます。
湯上がりから夕食までの時間が短い人ほど、この冷えに気づきにくくなります。食事処に入った時点ではまだ体が温かく、羽織を脱いでしまうからです。そして食事の後半、デザートの頃になって急に寒くなります。
冷えを防ぐために見る目安は、湯から上がった時刻と、夕食の終わる時刻の差です。
- 差が2時間以内なら、羽織を椅子の背か座布団の横に置いておき、寒くなったら着る
- 差が2時間を超えるなら、最初から羽織を着て座る。脱ぐのは暑くなってから
旅館によっては、食事処にひざ掛けが用意されています。座ったら最初に、ひざ掛けがあるかを見てください。なければ、お店の人に頼むと出してもらえることが多いです。ひざ掛け1枚で、座敷の腰から下の冷えはかなり和らぎます。
飲み物でも体の感じ方は変わります。冷たい飲み物を続けて飲むと、食事の後半に冷えが来るのが早まります。秋冬の旅館では、乾杯のあとは温かいお茶を挟むと、デザートまで寒さを感じずに過ごせます。
どちらとも取れるとき①|宿の案内に「浴衣可」とだけある
案内の紙に「館内は浴衣でどうぞ」とあっても、食事処について何も書いていない宿があります。浴衣で行ってよいのか、それとも食事処だけは別なのか、判断がつかない。ここがいちばん迷いやすい場面です。
この場合は、夕食の場所の名前で見分けます。
「お食事処」「大広間」「個室食事処」と書いてあれば、浴衣で問題ありません。旅館の造りの食事処で、浴衣を断るところはほとんどありません。
「ダイニング」「レストラン」と書いてあり、さらにそこが宿泊客以外も入れる店なら、着替えたほうが無難です。外からの客と同じ空間で食べることになるので、宿の側が浴衣を想定していないことがあります。
それでも判断がつかないときは、浴衣で行けて、着替えてもいい服を用意しておきます。浴衣を着たまま上に丹前を重ねて食事処の入口まで行き、周りを見て、浴衣の人が1人もいなければ部屋に戻って着替える。戻る手間はかかりますが、5分で済みます。最初から着替えておくより、浴衣で行って様子を見るほうが、失敗したときの損が小さいのです。
逆の失敗、つまり着替えて行ったら全員浴衣だった、という場合は、何も困りません。着替えた服で食べればいいだけです。迷ったら、浴衣で一度行ってみる。これを決まりにしておくと、毎回悩まずに済みます。
どちらとも取れるとき②|同行者が着替えると言う
一緒に行く人が「夕食は着替えて行く」と言ったとき、自分は浴衣で行きたい。あるいは、自分は着替えたいけれど相手は浴衣。この組み合わせの迷いもよく聞きます。
結論から言うと、**それぞれ好きなほうで行って差し支えありません。**旅館の食事処では、同じ席に浴衣の人と着替えた人が並ぶのはごく普通の光景です。
それでも気になる場合に、差を小さくする方法が2つあります。
1つめは、浴衣の人が上に丹前か自分の羽織りものを重ねること。浴衣1枚の人と着替えた人が並ぶと差が目立ちますが、浴衣の上に厚手の羽織があると、全体が「くつろいだ服」に寄って、着替えた人との差が縮まります。
2つめは、着替える人が、外出着ではなく部屋着に近い服にすること。たとえば、ひざ下まであるニットのワンピースに、薄手のカーディガン。これなら浴衣の人の隣に座っても、片方だけがよそ行きに見えることはありません。
写真を撮る予定があるなら、どちらかに合わせておくと後で見返したときにまとまって見えます。写真を撮らないなら、そこまで気にする必要はありません。食事の90分を快適に過ごせるほうを選んでください。
どちらとも取れるとき③|子ども連れ・親連れで行くとき
子どもや年配の親と一緒の旅行では、自分の服より同行者の動きが気になります。
小さな子どもと一緒のときは、浴衣で行くと食事のあいだに子どもを抱き上げたり、こぼしたものを拭いたりする動きが増えます。そのたびに前が開き、袖が料理に触れそうになります。子どもが3歳くらいまでなら、自分は着替えて、子どもだけ浴衣にするほうが楽です。どうしても浴衣で行きたい場合は、浴衣の袖を後ろで軽く結ぶか、たすきの代わりに腰ひもを1本持っていって袖をまとめると、料理に袖が入りません。
年配の親と一緒のときは、親の浴衣の帯と裾を、食事処に行く前に一度見てあげてください。旅館の浴衣は丈が長めにできていることがあり、階段やエレベーターの段差で裾を踏むと転びやすくなります。裾がくるぶしの骨より下に来ているなら、帯を一度ほどいて丈を上げてから締め直します。
親が座敷で正座をしにくい場合は、予約の時点で椅子席を頼めるかを聞いておくと安心です。当日の食事処でも、座椅子や小さな腰かけを出してもらえることがあります。座る形が変わると、前の境目③で書いた冷える場所も変わるので、親の足元の冷えにも気を配ってください。
どちらとも取れるとき④|体の線や下着が気になる
浴衣で夕食に行くのをためらう理由として、口に出しにくいけれど多いのが、体の線や下着が気になる、というものです。旅館の浴衣は薄い綿で、湯上がりの体に貼りつくことがあります。
これは、浴衣の下に着るもので解決できます。前の章で書いた長袖の薄い肌着と、ひざ下までのレギンスです。浴衣の内側に1枚あると、布が直接体に貼りつかないので、体の線はほとんど出ません。
胸元が気になる人は、衿の合わせを深くするより、下に着る肌着の衿ぐりを詰まったものにするほうが確実です。浴衣の衿を深く合わせると、首が締まって食事のあいだ苦しくなります。肌着の衿ぐりが鎖骨の下で止まるものなら、浴衣の衿が少し開いても肌は見えません。
色は、浴衣の地の色に近い白か生成りを選ぶと、袖口や衿元からのぞいたときに目立ちません。濃い色の肌着は、白地の浴衣から透けることがあります。
それでもどうしても落ち着かないなら、浴衣にこだわらずに着替えてかまいません。夕食の時間を楽しめるかどうかが一番で、浴衣はそのための手段の1つです。
着替えるなら|部屋着の延長で足りる組み方
宿の案内で浴衣不可だった場合、または自分で着替えると決めた場合の服です。ここで頑張ってよそ行きを用意する必要はありません。部屋着の延長で足ります。
組み方の目安は、上下で1つずつ考えます。
上は、湯上がりにすぐ汗が引くように、首元の詰まりすぎないニットか、ゆったりしたカットソーに薄手のカーディガン。下は、ウエストがゴムで、座敷でひざを折っても突っ張らない、ひざ下からくるぶしまでのスカートか、ゆとりのあるパンツ。
色は、湯上がりの顔色に合わせて、普段より一段明るいか、やわらかい色を選ぶと落ち着きます。旅館の食事処は照明が暖かい色で暗めのことが多く、黒や濃い紺の服は、ほかの客の浴衣の明るさの中で沈んで見えることがあります。生成り、薄い灰色、くすんだ桃色のような、浴衣の地の色に近い明るさの服なら、浴衣の人の隣でも差が目立ちません。
素材は、湯上がりの肌に当たっても汗を吸う、綿やウールの混ざったものが向いています。化学繊維だけのつるつるした生地は、汗が引くまでのあいだ肌に貼りついて、浴衣のときと同じ悩みが出ます。
ワンピースなら1枚で済みます。座敷の宿なら、裾がふくらはぎの中ほどより長く、裾幅がひざを折っても突っ張らないくらいある形を選んでください。タイトな形のワンピースは、正座から横座りに崩すときに裾が上がります。
湯上がりにきつい服を着ると、食事中に体が苦しくなります。ウエストもネックラインも、普段より一段ゆるいものを選ぶのが、旅館の夕食に着替えるときのコツです。
荷物を増やしたくないなら、2日目の朝食にも同じ服を着てください。夕食と朝食の服を分ける必要はありません。旅先で服の枚数を減らす考え方は食べ歩き旅行の服装(秋冬は両手がふさがる時間と袖口で決める)でも書いています。
湯上がりの汗が引かないとき|食事処に行く前の15分
秋冬でも、温泉から上がった直後は体が熱く、浴衣に袖を通すと背中や首に汗がにじみます。この汗が、食事のあいだの冷えのもとになります。汗を吸った浴衣は、座っているうちに冷たくなり、背中から体温を奪うからです。
湯上がりから夕食まで時間がない日ほど、この15分の過ごし方が効きます。
まず、浴衣を着る前に、首の後ろと背中の上のほうをタオルでしっかり拭きます。汗をかきやすいのは、首の付け根から肩甲骨のあいだです。ここが濡れたまま浴衣を着ると、衿の内側がすぐ湿ります。
次に、浴衣を着たら羽織はまだ重ねず、部屋で5〜10分座って汗が引くのを待ちます。窓を少し開けるか、エアコンを送風にすると早く引きます。汗が引いたと感じたら、そこで初めて羽織を重ねて部屋を出ます。
汗が引かないまま羽織を重ねて廊下に出ると、羽織の中で汗が蒸れ、食事処に着いて羽織を脱いだ瞬間に一気に冷えます。秋冬の旅館で「食事の途中から急に寒くなった」という人の多くは、この順番が逆になっています。
浴衣の下に長袖の肌着を着る場合は、汗を吸って乾きやすい薄手のものを選んでください。厚手の綿の肌着は、汗を吸ったまま乾かず、かえって冷えます。湯上がりに着る肌着は、普段の冬に着ている保温用のものより、一段薄いものがちょうどよい厚さです。
時間に余裕があるなら、湯から上がる時刻を、夕食の開始時刻の45分前に置くと楽です。15分で体を拭いて浴衣を着て、15分で汗を引かせ、残りの15分で髪を乾かして移動する。この順番を前の日に決めておけば、慌てて汗だくのまま食事処に行くことはなくなります。
朝食も浴衣でいいか|2日目の朝は別に考える
夕食を浴衣で過ごしたあと、翌朝の朝食も浴衣で行ってよいかで、もう一度迷う人がいます。朝食は夕食と条件が違うので、別に考えたほうが判断しやすくなります。
違いの1つめは、寝起きの浴衣は着崩れていることです。ひと晩寝たあとの浴衣は、帯が緩み、合わせがずれ、裾が乱れています。そのまま食事処に行くと、夕食のときより前が開きやすくなります。朝食に浴衣で行くなら、一度帯をほどいて、合わせと丈を直してから締め直してください。3分あれば足ります。
2つめは、朝の廊下は夜より冷えることです。秋冬の旅館では、夜のあいだ暖房を弱めている建物も多く、朝の廊下は前の晩より冷たく感じます。夕食のときに羽織だけで足りた人も、朝食には丹前か、浴衣の下の長袖を足したほうが楽です。
3つめは、朝食のあとにチェックアウトが続くことです。朝食を浴衣で済ませると、部屋に戻ってから着替える時間が要ります。チェックアウトまでの時間が1時間を切るなら、朝食の前に着替えてしまったほうが慌てずに済みます。
朝食をビュッフェにしている宿では、皿を持って何度も立ち歩くことになります。浴衣の袖は料理の上を通るときに触れやすく、裾は立ったり座ったりのたびに乱れます。ビュッフェの朝食に浴衣で行くなら、袖を軽く押さえながら取る、帯をいつもより少し強めに締める、の2つを気にしてください。それが面倒なら、朝食だけ着替えてしまうのも1つの手です。
宿によっては、朝食会場を夕食とは別の場所、たとえばロビーの近くのレストランにしていることがあります。案内の紙で朝食の場所を確かめて、夕食のときと同じように廊下の長さと座る形で決めてください。
夕食のあと、部屋に戻ってからの冷え
夕食が終わって部屋に戻ったあとも、浴衣の冷えは続きます。食後に湯に入りなおす人もいますが、入らずに部屋で過ごす人は、ここで冷えに気づくことが多いです。
部屋で過ごすあいだは、羽織か丹前を着たままにしておきます。食事処から戻ったときに暑く感じて脱ぐと、30分ほどで体が冷えてきます。脱ぐなら、ふとんに入る直前にしてください。
寝るときは、浴衣の下に着ていた長袖の肌着とレギンスをそのまま着ていてかまいません。旅館の浴衣は寝ているあいだに前がはだけやすく、下に1枚あると寝冷えを防げます。夕食のために用意した3つが、そのまま寝るときにも役に立ちます。
髪も冷えのもとになります。湯上がりに髪が濡れたまま食事処に行くと、首の後ろが冷えて、羽織を重ねていても寒く感じます。食事処に行く前に、根元だけでもドライヤーで乾かしておいてください。長い髪は、乾かしきれなければ後ろで低い位置にまとめておくと、浴衣の衿を濡らしません。
前の日に決めて、持っていく物は3つだけ
最後に、前の日の準備です。浴衣で行くか着替えるかを当日の夕方に考えるのではなく、前の日の夜に決めてしまいます。
決めるために、宿の案内ページか予約の確認メールで3つ確かめてください。
- 夕食の場所(部屋食・食事処・レストラン)と、館内着の決まり
- 食事処の座る形(座敷・椅子・掘りごたつ)
- 食事処が客室と同じ建物か、別館か
この3つがわかれば、この記事の最初の表のどの行に入るかが決まり、持っていく物も決まります。浴衣で行くなら、持っていくのは次の3つだけです。
- 薄い長袖の肌着(七分袖)
- ひざ下までのレギンス(七分丈)
- 薄い靴下
どれも小さく丸めれば、片手に収まる量です。宿に浴衣と羽織があるなら、これ以上は要りません。
廊下の長さが下見をするまでわからない宿なら、3つとも持っていって、使わなければそれで終わりにしてください。持っていかずに寒い思いをするより、使わずに持ち帰るほうがずっと楽です。
旅館の夕食は浴衣でいい、という答えは、ほとんどの宿で変わりません。変わるのは、その宿の廊下の長さと、食事処の座る形です。この2つを前の日に確かめておけば、当日の夕方に迷う時間はなくなります。
秋冬の温泉の湯の外での過ごし方は水着で入る温泉の記事に、日帰りの場合は日帰り温泉の持ち物(湯上がりから家に着くまでの時間で選ぶ)に書いています。
よくある問い
- Q. 旅館の夕食に浴衣で行くのは失礼ではありませんか
- 館内で浴衣を着て過ごすことを前提にしている宿がほとんどで、食事処に浴衣で来る人がいちばん多い場面です。気になる場合は、客室の案内の紙か予約の確認メールに「館内は浴衣でお過ごしください」「レストランは浴衣不可」のどちらが書いてあるかを見てください。何も書いていなければ浴衣で行って差し支えありません。
- Q. 秋冬の旅館で、浴衣だけで食事処に行くと寒いですか
- 部屋から食事処まで同じ階で50歩以内、廊下に暖房があるなら、浴衣に備え付けの羽織を重ねれば足ります。階をまたぐ、外気に触れる渡り廊下がある、食事処の床が板張りでひざ掛けがない、のどれかに当たるなら、浴衣の下に薄い長袖とひざ下まであるレギンスを足し、足元は素足ではなく靴下を履いてください。
- Q. 座敷で浴衣の前がはだけないか心配です
- はだけるのは座っている最中より、立ち上がるときと座るときです。座る前に上前(外側に重なる左の身頃)を右手で押さえて、ひざをそろえたまま腰を落としてください。立つときは片ひざを立てず、両ひざを床につけたまま腰を浮かせてから足を引きます。帯をいつもより指1本ぶん下で締めておくと、合わせが動きにくくなります。
- Q. 同行者が着替えると言っています。自分だけ浴衣でも浮きませんか
- 浮くかどうかより、食事処に着いてから1時間半、自分の体が冷えないかで決めてください。着替える人と浴衣の人が同じ席に並ぶのは旅館ではごく普通です。どうしても気になるなら、浴衣ではなく持参の部屋着寄りのワンピースにして、その上に羽織を重ねれば、2人の差は小さくなります。
— メグラシ編集部





