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編集部から

母を見送った日、装いから喪に向き合った話

メグラシ編集部//読了 8分
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3行で言うと

  • 喪服は「悲しみを抱えるための器」だった。装いが私の輪郭を守ってくれた。
  • 母を見送るまでの数日間、装いを整えることだけが「今、私にできること」だった。
  • 喪が明けて、私の装いの中には母から受け継いだものがあった。

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この記事は、メグラシ編集部の実体験を元にしたエッセイです。

母が亡くなった日のこと

母が亡くなったのは、ある冬の夜だった。

電話で連絡を受けたとき、私はちょうど夕食の支度をしていた。コンロの火を消し、エプロンを外し、玄関で靴を履く。その一連の動作が、なぜか妙にゆっくりに感じられた。世界が少し止まったような感覚。

病院に着いて、まだ温かい母の手を握ったあと、私が最初に考えたのは「明日、何を着ていけばいいのだろう」だった。

不謹慎だと思われるかもしれない。でも、もしかしたら同じ経験をした方は、わかってくれるかもしれない。深い悲しみの中にいるとき、人は「具体的な何か」にしがみつく。 そして装いは、そのときの私にとって、しがみつける数少ない「具体的な何か」だった。

喪服を取り出した夜

家に戻って、クローゼットの奥から喪服を取り出した。

10年前、父を見送ったときに買ったもの。サイズは少し変わっていたけれど、ありがたいことに、まだ着られた。

その夜、ひとりで喪服を着て、姿見の前に立った。鏡の中の私は、喪に服する人の輪郭をしていた。黒い装いは、私の悲しみを外側から包んでくれる器のようだった。 形がないものに、形を与えてくれる。

これから3日間、私はこの装いの中で、母を見送る役を務める。「役」という言葉は失礼かもしれない。でも実際、深い悲しみの中で「自分らしくいる」ことは難しい。装いがあるからこそ、私は「喪主の娘」という役割の中に身を置き、その役割が私を支えてくれる。

通夜の朝、髪を整えた

通夜の朝、いつもより丁寧に髪を整えた。

母は、私が髪を雑にまとめると、よく「もう少しきれいに」と注意してくる人だった。「あなたの髪は、お母さんからの贈り物だから、大切にしなさい」と。

その朝、私は母の言葉を思い出しながら、ピンを丁寧に留めた。耳の後ろに、品のあるパールのピアスをつけた。母が好きだった、控えめなパールを。

これは、母への最後の「ご報告」のような気がした。「お母さん、ちゃんとしてるよ。心配しないで。」 装いを整えることが、見えない母への手紙を書くことに似ていた。

葬儀の3日間、装いだけが「できること」だった

通夜、葬儀、初七日。3日間、私は喪服の中にいた。

参列者への挨拶、僧侶への対応、親族との段取り。やることは山ほどあったけれど、心の半分は、まだ母のそばにいた。意識が定まらない時間があった。

それでも、装いだけは整えられた。「何をしていいかわからない」状態の中で、「整った装いの中にいる」という事実だけが、私の輪郭を守ってくれた。

喪服の生地の重さ、ストッキングの肌触り、フォーマルな靴の硬さ。それらが「今、ここ」に私を引き戻してくれた。装いは、悲しみに飲み込まれそうな自分を、現実の世界に繋ぎ止める錨だった。

喪が明けた春、私の装いに母がいた

四十九日が過ぎて、喪が明けた春。

クローゼットを開けて、いつもの装いに戻そうとしたとき、私は気づいた。私のクローゼットには、いつの間にか、母から受け継いだものがたくさん入っていた。

母が好きだった淡いグレーのカーディガン。母が「あなたに似合うわよ」と言ってくれた紺のワンピース。母から譲り受けた、上品な真珠のネックレス。

母はもういない。でも、私の装いの中に、母の好みが、母の言葉が、母のまなざしが、まだ残っている。装いは、亡くなった人と「対話する」ための媒介でもあった。

その春、私は淡いグレーのカーディガンを羽織って、母のお墓参りに行った。「お母さん、これ、覚えてる?」と、心の中で問いかけながら。

喪が教えてくれたこと

母を見送ってわかったことがある。

装いは、人生の最も静かな時間にこそ、私たちを支えてくれる。何もできない、何も言えない、何も考えられない。そんなときでも、ただ「装いを整える」という行為だけは、できることがある。

それは派手な行為ではない。誰かに褒められるためのものでもない。でも、ひとりの大人として、自分の輪郭を保つために、必要なことだった。

そして、喪が明けた後。私たちは、亡くなった人の好みや言葉を、自分の装いの中に少しずつ取り入れて、「対話を続けていく」ことができる。装いは、見送った人との、終わらない手紙のような存在になる。

母を見送ってから、私は装いと、より深く向き合うようになった。これは、母が遺してくれた最後の贈り物かもしれない。

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よくある問い

Q. この記事は実話ですか?
メグラシ編集部の実体験を元に、複数の体験を統合して構成しています。固有名詞は伏せていますが、装いと喪に関する感覚は実体験そのものです。
Q. 喪服はどう選べば良い?
フォーマルな黒のワンピースやセットアップが基本です。長く着られる、肌触りの良い素材を選ぶことをおすすめします。詳しくは「[大人の喪服選び](/wear/scene/funeral-attire-guide)」をご覧ください。
Q. 喪が明けた後の装いはどう整える?
急に元に戻すのではなく、徐々に色を取り戻していく方が自然です。最初はグレーや紺、ベージュなどの「中間色」から始めてみてください。

— メグラシ編集部

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